MYTEKブランド・ヒストリー

米国のオーディオブランドMYTEKは、ニューヨークに本拠を置くオーディオ機器メーカーです。ザ・ヒットファクトリー、そして後にはスカイライン・レコーディング・スタジオというマンハッタンの二大スタジオで電気工学エンジニアを務めたミハウ・ユーレビッチにより、1992年にニューヨークで設立されました。

ポーランドのワルシャワで電気工学と音響学を学んだミハウは、大学卒業後エンジニアとして1989年に渡米し、ニューヨーク最大のレコーディング・スタジオである「ヒットファクトリー」に就職しました(注:アメリカのスタジオでは機器の整備やカスタマイズ、特注品の開発などを目的として専属の電気工学エンジニアを採用する慣習があります)。ヒットファクトリーでは、ポール・サイモン、ビリー・ジョエル、バーバラ・ストライサンドなどの作品をアナログテープで録音する仕事を始めました。ここで彼は、素晴らしい録音とはどのような音であるべきか、そしてそれを実現するためにはどのような機材が必要か、ということを学びました。当時、ミハウは壊れたイコライザーやアンプ、コンプレッサーなど、他の技術者が扱うには複雑すぎて手に負えないものの修理を手掛けることで有名でした。

ヒットファクトリーでのミハウの仕事への評判から、ミハウは「スカイライン」スタジオに移籍し、技術エンジニアとしてのキャリアを新たにスタートさせることになりました。スカイラインは伝説の音楽プロデューサー、ナイル・ロジャースの本拠地であり、マライア・キャリーやジェームズ・テイラーが好んで使用していたスタジオでした。ミハウは1990年からコンバーターの設計に着手し、スカイラインでは、はんだ付けしたての機材をいち早くテストする素晴らしい機会を得るとともに、このプロトタイプは、マライア・キャリーやジェームズ・テイラー、当時スタジオで働いていたビー・フィフティートゥーズのような、多くの著名アーティストの作品のミックスダウン作業で使用されることとなりました。

スカイライン在籍時、ミハウは新しいデジタルシステムのワークフローと音質を改善するためのソリューションを開発しました。これをきっかけとして1992年にMYTEKが誕生し、1993年に18ビットのADコンバーターを最初の製品として発表しました。この製品は、現場の要請を十分に満たす音質と操作性が話題となり、たちまち多くのレコーディングエンジニアから厚い信頼を勝ち取りました。MYTEK設立当初から、アーティストやプロデューサーはMYTEKの機器の音質を高く評価しており、間もなくニューヨークのほとんどのレコーディングスタジオでは “Mytek Private Q “ヘッドフォンモニターシステムが導入され、Mytek初のアナログ/デジタルコンバーターを使用したレコーディングでは、1990年代のデジタルレコーディングに典型的ないわゆる“デジタル臭い”サウンドに悩まされることなくレコーディングを行うことができました。

1995年に「スカイライン」が閉鎖された後、ミハウはMYTEKの事業に専念することにし、レコーディング用途やマスタリング用途として、これまでに30種類にも及ぶA / DおよびD / Aコンバーターを設計開発したほか、DSD録音用マスターレコーダーの開発にも携わるなど、その才能をいかんなく発揮しました。こうした数々の技術と経験の積み重ねにより、MYTEKのコンバーターは、最高品質の音質を実現する機器の1つとして、現在も多くのレコーディング・スタジオやマスタリング・スタジオで広く使用されています。ユニバーサル、ワーナー、ソニーなどの多数のレコード会社は、PCMおよび/またはアナログマスターのDSD化にMYTEKを使用しており、数え切れないほどの著名な作品が、MYTEKのコンバーターを通じて録音され、デジタル化されてきました。例を挙げるならばNorah Jones、Metallica、Beck、Aerosmithなど多くの著名アーティストが実際にMYTEKのコンバーターを所有し、使用しています。

ミハウは1992年以来自分の開発した製品の入念な試聴を欠かしたことが無く、音質の向上に余念がありません。こうした姿勢は、現行製品の改良と新製品の音質向上に確実に反映されています。MYTEKのコンシューマ向デジタルオーディオ製品は、スタジオ向け機材の開発で培われた技術やDSD変換に関する豊富な知識、そしてオーディオファイルとしての経験を活かした高い完成度を誇っています。

MYTEKは18/20/24/32ビットPCM録音のパイオニアを経て、”DSD Super Audio CD Project”の一員となり、今日ではMQAマスタリングと再生の開発を支援するなど、絶えず革新を続けてきました。最近では、デジタルオーディオとインターネット配信が共に進化し始めたことで、プロのスタジオと家庭の間にある音質の壁がなくなってきました。このような未来を見据えて、MYTEKは音楽制作者だけでなく、音楽を愛する人たちのために再生機器の設計を始めました。今日では、時代を超えた音楽を生み出すために使用されているのと同じ機器が、生涯にわたって音楽を楽しむために利用できるようになっています。ミハウは、レコーディングスタジオで音楽をデジタルエンコードする方法を正しく理解することが、今日MYTEKが世界各国でアワードを受賞したDACを設計するための最先端の能力につながることを一貫して実証してきました。利便性・デザイン・音質のすべてがMYTEKの活動の中心にあります。

MYTEKは現在、販売、研究開発、サポート、流通のために2つの物理的な拠点を持っています。ニューヨーク州ブルックリンにあるMytek Audio本社と、ポーランドのワルシャワにあるMytek Europe CorporationのEU支店です。